(2020.7.27追記:世の中には塗るタイプのカイロや温感クリームというものがあるようです。指先カイロを考えたときは調査不足だったので知りませんでした。私が欲しかったのは前者であり、指先カイロではない気がします。)
寒い環境の中でも私は本のページをめくったりスマホを操作したりするのですが、指先が冷たすぎると指を思うように動かせません。細かい作業をするときは当然手袋をはずさないといけませんが、手袋をはずすとますます指先が冷たくなってしまいます。寒くても素手で指先を使った軽作業をしやすくできないかと考えて「指先カイロ」を作りました。
指を温める仕組み
- 体の温かい部分から直接熱をもらう方法
息を手に吹きかけたり首などの温かい部分を触ったりして手を温めます。普段私はこの方法を一番よく使います。指を温めるためには一度作業を中断しなければなりません。
- 血行をよくする方法
グーパーして指の血行をよくして温めます。この方法は私の指には無効でした。
- 手首を温める方法
手首を温めることで指先までも温めようとします。この方法は私の指には無効でした。
- あらかじめ温めて置いた物体から熱を伝える方法
温かい飲み物が入った入れ物を触るなどして指を温めます。もし小型軽量で熱容量が大きい物質があればかなりよい方法です。なぜなら使用後にその物体が冷たくなっても体温で温め直せば再び使えるからです。今回はそのような物質があるかどうかの調査は行いませんでした。
- 摩擦熱による方法
手のひらをこすりあわせ、摩擦熱で手を温めます。指を温めるためには一度作業を中断しなければなりません。
- ジュール熱による方法
火傷を防ぐために温度を制御する必要があり、電源や配線をどうするかという問題があります。さらに、複数回使用するなら洗濯をどうするかという問題があります。
- 反応熱による方法
火傷を防ぐために高温になりすぎないように反応速度を調節する必要があります。そして環境にやさしい必要があります。
先行事例
- 指のない手袋
作業はしやすいですが指先は冷たくなります。
- 手首を温める方法
私の指は手首を温めたとしても冷たいままでした。
- 電気で手袋を温める方法
手袋をしていたら作業が困難です。
- 手袋の中に温かいものを挿入する方法
手袋をしていたら作業が困難です。
今回提案するカイロの特徴
私の指で試した結果、指に直接熱を供給しないかぎりは指が温まりませんでした。そして温めた部分だけ局所的に温かくなって、そうでない部分は冷たいままでした。温めるのを止めるとすぐに冷たくなりました。したがって熱源を直接指に取り付けて温め続けなければならないと分かりました。この実験結果と寒い中で指先を使った軽作業をしやすくするという目的とを考えあわせて以下に挙げる4点を満たすものを作ろうと考えました。
- 指先を温める
- 素手に装着して使う
- 手作業の邪魔にならない
- 少なくとも数分間は温かさが持続する
これらを実現するために自ら発熱する小さな熱源を第2指節の手の甲側に取り付ければよいと考えました。今回は熱源として酢酸ナトリウム三水和物の凝固熱を使用しました。酢酸ナトリウム三水和物を入れた小型容器をゴムバンドの輪っかで指に装着するだけで使えるので楽です。汚れるのはゴムバンドだけなので洗濯するなり交換するなりすれば繰り返し使用できます。
実際に使うとなれば安さも重要になってきますが、この方法なら安く作れます。
製作方法
材料
- 酢酸ナトリウム無水物(Amazon)
- 水(水道水)
- 醤油用の鯛型プラスチック容器(100均)
- ゴムバンド(100均)
- 小さいタッパー(100均)
熱源
今回は酢酸ナトリウム三水和物の過冷却現象を利用し、その凝固熱をカイロの熱源とします。
酢酸ナトリウム無水物82[g]と水54[g]の割合でペットボトルに入れ、湯煎にかけながら酢酸ナトリウム三水和物を作ります。酢酸ナトリウム三水和物を買ってもいいかもしれません。
最小目盛りが10[g]のはかりしか持っていなかったので重さはほぼ目分量で計りました。湯煎にかけると水が蒸発して減ってしまうので水は54[g]より少し多めに入れました。蒸留水を用意するのが面倒だったので水道水を使いました。
この作業は次のサイトを参考にして行いました。
http://www.onsenmaru.com/topics/T-150/T-177-jisakukairo-B.htm
カイロ本体
液体状態の酢酸ナトリウム三水和物を醤油用の鯛型プラスチック容器に入れて冷まします。ペットボトルに残った酢酸ナトリウム三水和物も冷まして衝撃を加え凝固させ、タッパーに入れておきます。
取り付け部
ゴムバンドを適当な長さに切ります。(私の指の場合9cmくらい。)ゴムバンドの両端がほつれないようにライターであぶります。ゴムバンドで輪を作り、縫い代1cmくらいで縫います。
使用方法
発熱開始
液体状態の酢酸ナトリウム三水和物入り鯛型プラスチック容器のふたを開け、酢酸ナトリウム三水和物の結晶をひとかけら入れると、そのかけらを起点として凝固が進行し、凝固熱が発生します。発熱が確認できたら容器のふたを閉めます。
装着
ゴムバンドの輪を手の指の第2指節にはめ、指の背とゴムバンドの隙間に、発熱している鯛型容器を挟みます。このページの一番上の写真(指先カイロ装着図)を参考にしてください。
再使用
凝固し終わって冷えたカイロを容器ごと湯煎にかけて中身を液体状態に戻し、冷まします。
以降同じことの繰り返しです。
苦労した点
酢酸ナトリウム無水物から酢酸ナトリウム三水和物をつくるのにかなり時間がかかるので大変でした。
酢酸ナトリウム無水物と水の分量が適当だったために水が多すぎたり少なすぎたりしました。そのせいか、一番最初に作った酢酸ナトリウム三水和物はなかなか凝固しなかったので困りました。
酢酸ナトリウム三水和物を入れる容器探しでだいぶ苦労しました。試行錯誤の末に見つけた醤油用の鯛型プラスチック容器は、その丸みのために指の背の曲面によく合うので、意外にも結構いい容器です。
酢酸ナトリウム三水和物を使ったカイロ自体はすでに製品化されています。既存のカイロは衝撃を加えることで発熱を開始させます。しかし今回作った酢酸ナトリウム三水和物入り鯛型容器にどんなに衝撃を加えても凝固が開始しなかったので別の方法を考えなけばなりませんでした。凝固はなんらかのきっかけがないと開始しないので、あらかじめ作っておいた酢酸ナトリウム三水和物の小さい結晶を容器に入れればよいのではないかと思いつき、試してみたらうまくいきました。手間がかかりますが、この方法が確実です。
改善点
酢酸ナトリウム三水和物を使えばカイロを家庭で作りやすいですし、再使用可能、軽量、制御不要、安全(酢酸ナトリウムは食品添加物なので口に入っても大丈夫ですし融点が58℃なので熱くなりすぎない)という利点があります。しかし発熱開始のための操作が面倒ですし、今回使った醤油用の鯛型プラスチック容器のように完全に密閉されていない容器だと酢酸ナトリウムの酸っぱいにおいがしますし、酢酸ナトリウム三水和物を温めて融かさなければ再使用できないので面倒という欠点があります。
「指先カイロ」をより使いやすいものとするためには発熱部分を変更する必要があります。私は市販のカイロのような鉄の酸化熱を利用した発熱部分がよいと考えています。ただし市販のカイロの大きさは手のひらサイズなので指先サイズの特注品である必要があります。カイロの入ったビニール袋を開けるだけで発熱が開始するので楽ですし、使い捨てなので楽ですし、無臭です。鉄粉自体は安全ではないですが市販のカイロのような入れ物に入っていれば安全です。市販のカイロは変形しやすいので鯛型容器よりも指にフィットしてより広範囲に指を温められます。
まとめ
カイロ会社が指先サイズのカイロも発売してくれればいいのに。